№7 借入金と資金繰りの基本——「攻め」と「守り」の両面から考える

記事監修

大内浩一税理士事務所
所長/税理士 大内浩一

9年間の税理士事務所勤務を経て、平成9年に大内浩一税理士事務所を開業。平成13年には米国公認会計士試験に合格(イリノイ州)。現在に至る。上場企業から個人事業までの幅広い税務顧問を中心に業務を展開。現在では、相続手続き及び相続税申告業務に力を注いでいる。

この記事では、借入金の「攻め」と「守り」の両面、運転資金と設備資金の本質的な違い、返済原資の計算方法を解説します。創業間もない経営者の方に向けた内容です。

関連記事として、「入出金サイトを制する」「金利上昇時代の借入戦略【実践編】」もあわせてご覧ください。

「利益」と「キャッシュ」は違う——基本の確認

借入金の話をする前に、基本を確認しておきます。

「利益」と「現金(キャッシュ)」は、似ているようで違います。利益が出ていても現金が足りない、ということは珍しくありません。詳しくは「入出金サイトを制する」で解説していますが、ここでは借入金に関連する部分だけ確認します。

項目 利益への影響 現金への影響
借入金の元本返済 費用にならない 現金が減る
借入金の調達 収益にならない 現金が増える
支払利息 費用として計上 現金が減る

特に重要なのは「借入金の元本返済は経費にならない」という点です。毎月の返済額は、損益計算書には出てきません。しかし、現金は確実に減っていきます。

逆に、支払利息は経費になります。法人税率が25%なら、年間10万円の支払利息で約2.5万円の節税効果があります(10万円×25%)。つまり、借入金利が3%でも、節税効果を考慮すると実質的な負担は約2.25%程度になります。この「利息の節税効果」は、後述する投資判断(ROI>金利)でも考慮に値するポイントです。

【最重要】運転資金と設備資金——まず区別を理解する

借入金を考えるうえで、最初に理解すべき区別があります。「運転資金」と「設備資金」の違いです。

これは単なる「目的」の違いではありません。お金の「使われ方」と「結果」が根本的に異なります。まず両者の定義を確認しましょう。

運転資金 設備資金
定義 日々の事業活動を回すための資金 事業に必要な資産を取得するための資金
具体例 仕入代金、人件費、家賃、光熱費、通信費、リース料、広告費、社会保険料など 機械、車両、店舗内装、システムなど
お金の行き先 支払いに消える(形が残らない) 資産として残る(形が残る)
 返済期間の目安   5年以内が一般的 7〜15年が一般的

この区別を理解したうえで、それぞれの注意点を見ていきます。

運転資金の借入——黒字体質ならOK、赤字体質なら危険

運転資金の借入が問題ないケースと、危険なケースがあります。分かれ目は「黒字体質かどうか」です。

【黒字体質なら問題ない】

本業で利益が出ている会社が、タイミングのズレを埋めるために借りる——これは健全な資金調達です。

 ケース 内容
季節変動 黒字体質だが、繁忙期前に仕入資金が必要
成長運転資金 急成長で売掛金や在庫が膨らみ、入金より先に支払いが発生
大口受注対応 大きな受注に対応するための一時的な資金需要

「成長運転資金」について補足します。売上が増えると、売掛金や在庫も増えます。入金より先に仕入代金や人件費の支払いが来るため、成長期ほど一時的に資金が不足しやすくなります。詳しくは「入出金サイトを制する」をご覧ください。

ただし、黒字体質でも運転資金借入を恒常的に繰り返すのは危険信号です。根本的な資金繰り(入出金サイト)の見直しを検討してください。

【赤字体質なら危険】

問題なのは、赤字が続いている会社が運転資金を借りるケースです。「赤字体質」とは、直近2〜3期連続で営業利益(本業の儲け)が赤字、つまり売上から仕入と経費を引いた利益がマイナスの状態を指します。ただし、創業1〜2年目の赤字は事業が軌道に乗るまでの助走期間であり、ここでいう「赤字体質」とは異なります。事業計画どおりに推移しているなら、過度に心配する必要はありません。問題なのは、当初の計画から大きく外れて赤字が続いているケースです。

順序 赤字体質での運転資金借入の流れ
赤字の会社が運転資金を借りる
借りたお金は固定費(家賃、人件費、光熱費、通信費など)に消える
でも、赤字体質は変わっていない
来月もまた固定費がかかる → お金がなくなる
また借りる(または返済が苦しくなる) → 負債だけが膨らむ

お金が「流れていくだけ」で、何も生まない。赤字体質は簡単には変わりません。運転資金の借入は「時間を買っている」だけです。その間に体質を変えられればいいのですが、なかなかそうはいかない。結局、借金だけが残ってしまいます。

設備資金の借入——成長サイクルを生む可能性

一方、利益を生む設備に投資するために借りる場合はどうでしょうか。

順序 設備資金借入の流れ
借りる(他人資本を調達)
収益を生む機械・設備に投資する
その資産が稼働し、投資額以上のキャッシュを生み出す
返済しても手元に利益が残る
その利益でさらに投資できる → 成長サイクルが回り始める

借りたお金が「稼ぐ力を持つ資産」に変わり、その資産が利益を生む。利益が出れば、元本を返しても手元に残る。それを再投資すれば、成長が加速していく——これが成長サイクルです。

ただし注意点があります。設備資金でも「利益を生まない設備」への投資は危険です。本社ビル、豪華な応接室、過剰スペックの車両など、見栄のための投資は、運転資金と同様に「消えていくだけ」になります。では、どうやって「利益を生む投資」かどうかを見極めるのか。その具体的な判断基準を、次の「攻めの視点」で解説します

借入を検討するときの問い

借入の種類 お金の行き先 結果
赤字体質での運転資金 固定費に消える 何も生まない。負債だけ増える
黒字体質での運転資金 一時的なズレを埋める 問題なし(繰り返しは要注意)
利益を生む設備資金 収益を生む資産に変わる 成長サイクルが回り始める
利益を生まない設備資金 見栄のための投資 運転資金と同様に危険

借入を検討するときは、「このお金は何に使われるのか」「それは利益を生むのか」を必ず考えてください。自己資本だけでコツコツやるのも堅実ですが、他人資本(借入金)を使って収益を生む資産を動かすことで、成長を加速させることもできます。

【攻めの視点】設備投資の判断基準

運転資金と設備資金の違いを理解したうえで、設備投資のための借入を「攻め」の視点から見ていきます。具体的な判断基準を解説します。

借入の活用効果(レバレッジ)——少ない自己資金で大きく動かす

「レバレッジ」とは「てこの原理」のことで、借入金を使って自己資金以上の投資をする仕組みです。少ない自己資金で大きな投資を動かすことができます。

具体例で見てみましょう。これは仮定の数字ですので、自社の状況に置き換えて考えてください。

借入なし 借入あり
自己資金 300万円 300万円
借入金 0円 300万円
投資額(設備) 300万円 600万円
年間利益(税引前・投資効果) 24万円 48万円
支払利息(年3%) 0円 9万円
差引利益 24万円 39万円
自己資本利益率(ROE) 8% 13%

自己資金300万円だけで投資すると、年間利益は24万円。しかし、300万円を借りて倍の設備に投資すると、利息を払っても39万円の利益が残ります。自己資本に対するリターン(ROE)は8%から13%に上がりました。

ROE(自己資本利益率)の計算式は次のとおりです。

ROE = 利益 ÷ 自己資本 × 100(%)

上の例:借入なし → 24万円 ÷ 300万円 × 100 = 8% / 借入あり → 39万円 ÷ 300万円 × 100 = 13%

※ここでは仕組みを理解しやすくするため、税金を考慮しない簡易計算にしています。実際には法人税等を差し引いた「税引後利益」で計算します。

これがレバレッジ効果です。借入金を使うことで、自己資金だけでは得られない成長スピードを手に入れることができます。

投資判断の基準——投資利益率は金利を上回るか?

では、どういう投資なら借入をしてでもやるべきでしょうか。判断基準は「投資利益率(ROI:Return on Investment)>借入金利」です。

ROI = 投資による年間利益 ÷ 投資額 × 100(%)

※「投資による年間利益」とは、その設備を導入したことで増えた営業利益のことです。投資前と比べて、売上の増加分から増加した経費(材料費・人件費・維持費など)を引いた金額で考えます。

上の例:48万円 ÷ 600万円 × 100 = 8%(金利3%を上回っているので、借りて投資する価値あり)

もっと直感的に言えば、「100万円借りて、年間5万円以上の利益が増えるなら、金利3%でも借りた方が得」ということです。現在の中小企業向け融資金利は年2〜4%程度が目安です(詳しくは「金利上昇時代の借入戦略【実践編】」をご覧ください)。

 ROI>金利の場合 ROI<金利の場合
借りて投資した方が得 借りない方が良い
例:ROI 8%、金利3%→5%の利益 例:ROI 2%、金利3%→1%の損

ただし、ROIは「見込み」に過ぎません。実際には想定通りにいかないこともあります。余裕を持った計画を立てることが大切です。

「借りないリスク」を知る

「借金は怖い」という気持ちはわかります。しかし、借りないことにもリスクがあります。

 借りるリスク 借りないリスク
返済負担で資金繰りが苦しくなる 成長の機会を逃す
金利負担がかかる 競合に先を越される
業績悪化時に返済が困難になる 自己資金だけでは規模が限られる
経営者の個人保証を求められることが多い

※創業融資では、経営者の個人保証を求められるケースが一般的です。事業が失敗した場合、個人の資産にまで影響が及ぶ可能性があります。借入の判断では、この点も十分に考慮してください。

たとえば、飲食店で食洗機を導入するかどうか迷っているとします。50万円の投資で、毎日1時間の洗い物時間を削減できる。その1時間を接客や仕込みに使えるなら、売上増や人件費削減につながります。

「現金がないから」と導入を見送り続けると、この機会損失は毎日積み上がっていきます。

設備投資のリスクも忘れずに

ここまで設備投資のメリットを説明してきましたが、リスクもあります。

リスク 内容
需要予測の誤り 想定通りに売上が伸びず、投資を回収できない
技術の陳腐化 新技術が登場し、設備の価値が下がる
過剰投資 身の丈を超えた投資で、返済が重荷になる

「設備資金なら借りてOK」ではありません。投資判断は不確実性を伴います。「売上が30%減っても採算が合うか」を必ず確認してください。

【守りの視点】返済で資金繰りを圧迫しない

運転資金でも設備資金でも、返済が資金繰りを圧迫しないかは共通のチェックポイントです。攻めの投資をする場合でも、この「守り」の視点は欠かせません。

返済原資——年間いくらまで返せるか

借入金の元本返済に充てられるお金を「返済原資」と呼びます。簡易的な計算式は以下のとおりです。

返済原資の計算式(簡易版)
返済原資 = 税引後利益 + 減価償却費

減価償却費は経費として計上されますが、実際には現金が出ていきません。そのため、税引後利益に加算して考えます。

ただし、これは簡易的な計算式です。実際には売掛金や在庫の増減も考慮する必要があります。たとえば、売上が増えて売掛金が100万円増えると、計算上は利益が出ていても手元の現金は100万円少ない状態です。成長期の会社ほど「利益は出ているのにお金がない」という状況に陥りやすいので注意してください。詳しくは「入出金サイトを制する」をご覧ください。

シミュレーション——返済額の違いでキャッシュはこう変わる

創業間もない会社を想定して、シミュレーションしてみましょう。これは仮定の数字ですので、自社の数字で計算してみてください。

前提条件      金額
年商 600万円
税引後利益 60万円
減価償却費 20万円
返済原資(年間) 80万円

この会社が、年間の返済額によってどう変わるかを比較します。

A社(返済過多) B社(返済適正)
年間返済額(元本) 100万円 60万円
返済原資 80万円 80万円
年間の現金増減 −20万円 +20万円
3年後の累計 −60万円 +60万円

A社は返済原資(80万円)を超える返済(100万円)をしているため、毎年20万円ずつ現金が減っていきます。一方、B社は返済原資の範囲内で返済しているため、現金が積み上がっていきます。

ただし、A社は現金が減る一方で、借入金残高も減っています。負債が減るということは、財務体質が改善しているということでもあります。「現金が減る=悪い」と単純には言えません。

返済原資の70〜80%を目安に返済額を設定すると、余裕を持った資金繰りができます。ただし、これは「守り」の視点での目安です。借入金を早く返して財務体質を改善したい、成長投資のために一時的に返済負担が大きくなる——こうした判断もありえます。何のための借入か、今の会社にとって何が優先か、を常に意識してください。

借入判断のチェックリスト

ここまで見てきた「運転資金と設備資金」「攻めと守り」を統合したチェックリストです。

【前提の確認】
□ 何に使うか明確にする(「とりあえず借りる」は危険)
□ 運転資金か、設備資金か、区別する

【運転資金の場合】
□ 直近2〜3期の営業利益(本業の儲け)を確認する(赤字体質なら体質改善が先)
□ 黒字体質で、一時的な資金不足(季節変動、成長運転資金など)かどうか確認する
□ 恒常的な借入になっていないか確認する(恒常的なら入出金サイトの見直しを)

【設備資金の場合——攻めの視点】
□ その設備は利益を生むか確認する(見栄のための投資は危険)
□ 投資利益率(ROI)を試算する(ROI>借入金利か)
□ 売上が30%減っても採算が合うかシミュレーションする
□ 「借りないリスク」(成長機会の損失)も考慮する

【共通——守りの視点】
□ 自社の返済原資(税引後利益+減価償却費)を計算する
□ 年間返済額は返済原資の70〜80%以内に収まるか確認する(目安)
□ 業績が20%悪化しても返済を継続できるかシミュレーションする

まとめ

借入金を考えるときは、まず「運転資金か、設備資金か」を区別してください。そして「それは利益を生むのか」を問いかけてください。赤字体質での運転資金借入は一時しのぎにしかなりません。見栄のための設備投資は、利益を生まない資産を抱えることになりかねません。一方、黒字体質での一時的な運転資金や、収益を生む設備投資のための借入は、経営を支え、成長を加速させる可能性があります。

そのうえで、「攻め」と「守り」の両面から検討してください。攻めの視点では投資効果を、守りの視点では返済負担を確認します。どちらか一方ではなく、両面を同時に考えることが、健全な経営につながります。

【関連記事】
・No.3 キャッシュリッチ経営とは——会社にお金が残る3つの条件
・No.6 入出金サイトを制する——黒字でも倒産する仕組みと対策
・No.8 金利上昇時代の借入戦略【実践編】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA