№ 6 入出金サイトを制する——黒字でも倒産する仕組みと対策

記事監修

大内浩一税理士事務所
所長/税理士 大内浩一

9年間の税理士事務所勤務を経て、平成9年に大内浩一税理士事務所を開業。平成13年には米国公認会計士試験に合格(イリノイ州)。現在に至る。上場企業から個人事業までの幅広い税務顧問を中心に業務を展開。現在では、相続手続き及び相続税申告業務に力を注いでいる。

「利益は出ているのに、なぜかお金がない」

こう感じたことはありませんか。実は、これは珍しいことではありません。そして、この状態が続くと、黒字なのに倒産する「黒字倒産」に至ることがあります。

会社が倒産するのは、赤字のときではありません。手元の現金がなくなったときです。

同じ売上、同じ利益でも、入金と支払いのタイミングが違うだけで、手元の現金は大きく変わります。この記事では、シミュレーションを通じて入出金サイトが資金繰りに与える影響を具体的な数字で解説し、改善策とその注意点をお伝えします。

【関連記事】
・No.3 キャッシュリッチ経営とは——会社にお金が残る3つの条件

「サイト」とは何か——入金と支払いのタイミング

「サイト」とは、取引が発生してから実際にお金が動くまでの期間のことです。

用語 意味
入金サイト(売掛サイト) 売上から入金までの期間 月末締め翌月末払い→約30〜60日
支払サイト(買掛サイト) 仕入・経費から支払までの期間 月末締め翌々月末払い→約60〜90日

入金サイトが短いほど、売上がすぐに現金になります。支払サイトが長いほど、手元に現金が長く残ります。

自社の入金サイトを計算してみる

入金サイトは以下の計算式で概算できます。

【計算式】入金サイト(日)= 売掛金残高 ÷ 日商(1日あたり売上高)

例えば、売掛金残高が300万円、月商が150万円(日商5万円)なら、入金サイトは60日です。同様に、買掛金残高と日商から支払サイトも計算できます。

「サイト勝ち」と「サイト負け」

入金サイトと支払サイトの関係によって、資金繰りの有利・不利が決まります。

状態 条件 影響
サイト勝ち 入金サイト < 支払サイト 先にお金が入り、後で払う→資金繰りが楽
サイト負け 入金サイト > 支払サイト 先に払い、後でお金が入る→資金繰りが苦しい

サイト勝ちの状態を作れれば、売上が増えるほど手元資金も増えます。逆にサイト負けの状態だと、売上が増えるほど運転資金が必要になり、資金繰りが苦しくなるという逆転現象が起きます。これが黒字倒産の典型的なパターンです。

シミュレーション——同じ利益でも現金残高はこれだけ違う

具体的な数字で見てみましょう。同じ損益計算書を持つ2つの会社を比較します。

【共通の損益計算書】

 項目 金額(月額)
売上高 200万円
売上原価(仕入) 120万円
粗利益 80万円
固定費(人件費・家賃など) 60万円
営業利益 20万円

毎月20万円の利益が出ている、健全な会社です。では、入出金のタイミングが違うとどうなるでしょうか。

※以下のシミュレーションは、運転資金ゼロ(手元現金ゼロ)でスタートした場合を仮定しています。実際の起業では、この「必要運転資金」を事前に準備しておく必要があります。

【A社】サイト負けの会社

・入金サイト:月末締め翌々月末払い(約60日後に入金)
・支払サイト:月末締め翌月末払い(約30日後に支払)
・固定費:当月末に支払

A社は、売上の入金より先に仕入代金と固定費を払わなければなりません。

入金 支払 資金過不足
1月 0円 60万円(固定費) △60万円
2月 0円 180万円 △240万円
3月 200万円(1月売上) 180万円 △220万円
4月以降 200万円 180万円 毎月20万円ずつ改善

A社は最初の2ヶ月で240万円の資金不足が発生します。この資金を借入などで調達できなければ、黒字でも事業継続ができません。

3月以降は毎月20万円(利益分)ずつ改善していきますが、資金不足を解消するまでに1年近くかかります。

【B社】サイト勝ちの会社

・入金サイト:現金売上(即日入金)
・支払サイト:月末締め翌月末払い(約30日後に支払)
・固定費:当月末に支払

B社は、売上が即日入金され、支払は後になります。

入金 支払 資金過不足
1月 200万円 60万円(固定費) +140万円
2月 200万円 180万円 +160万円
3月 200万円 180万円 毎月20万円ずつ増加

B社は1月目から140万円の現金が残り、その後も毎月20万円ずつ増えていきます。借入も不要で、資金繰りに悩むことがありません。

同じ利益でも、必要運転資金は全く違う

項目 A社(サイト負け) B社(サイト勝ち)
月間営業利益 20万円 20万円
2ヶ月目終了時点の資金状況 △240万円(不足) +160万円(余剰)
必要運転資金の差 約400万円

損益計算書は全く同じなのに、事業を回すために必要な運転資金は約400万円も違います。A社は240万円を調達しなければ事業が止まりますが、B社は160万円の余剰資金を持てます。これが「サイト」の力です。

入金サイトを短くする方法——選択肢と注意点

入金サイトを短くする方法はいくつかあります。それぞれメリットとデメリットがありますので、自社の状況に合った方法を選んでください。

方法①:現金売上を増やす

売上と同時に入金されるので、入金サイトはゼロになります。

【メリット】
・入金サイトがゼロになる(資金繰りが劇的に改善)
・請求事務が不要(請求書発行、入金確認、督促の手間がない)
・貸倒れリスクがゼロ

【デメリット・注意点】
・紛失・盗難リスク
・計数誤り、従業員不正のリスク
・税務調査で重点的に確認される領域(現金管理の記録を徹底)
・業界の商慣行や取引先との力関係により、現金回収が難しい場合も多い

方法②:前受金を導入する

商品・サービスを提供する前にお金を受け取る仕組みです。入金サイトがマイナスになる、つまり売上より先にお金が入ってくる最も強力な手段です。

【身近な前受金の例】

 業種・名称 金額(月額)
家賃 翌月分を前月末までに前受け
塾・スクール 翌月分の授業料を前受け
建設業の手付金 契約時に工事代金の一部を前受け
サブスクリプション サービス提供前に月額・年額を前受け
コンサルティング 着手金として契約時に一部を前受け

【メリット】
・入金サイトがマイナスになる(仕事をする前にお金が入る)
・貸倒れリスクがゼロ
・キャンセル率が下がる傾向(お金を払った顧客は真剣)

【デメリット・注意点】
・キャンセル時の返金義務がある(受け取った前受金は「自分のお金」ではない)
・会計上は「負債」として計上される(売上計上は役務提供後)
・顧客から「前払いは不安」と敬遠される可能性
・業種によっては法的な制約がある場合も(建設業法、特定商取引法など)

方法③:キャッシュレス決済を導入する

クレジットカード決済や電子マネー決済を導入することで、現金を扱うリスクを避けつつ、入金サイトを短縮できます。

【メリット】
・現金の紛失・盗難リスクがない
・掛け売りより入金が早い(数日〜数週間)
・取引記録が自動で残る

【デメリット・注意点】
・決済手数料がかかる(売上の3〜5%程度)
・BtoB取引では導入しにくい場合もある

方法④:ファクタリングを利用する

ファクタリングとは、売掛金を金融機関やファクタリング会社に売却して、早期に現金化する方法です。

【メリット】
・掛け売りの仕組みを変えずに、入金を早められる
・取引先との関係に影響しない(取引先に知られない形式もある)

【デメリット・注意点】
・手数料がかかる(売掛金額の数%〜10%以上)
・悪質な業者も存在するため、利用先の選定は慎重に
・手数料分だけ利益が減るため、常態化は避けたい(緊急時の手段)

支払サイトを延ばす——入金を早めるだけが方法ではない

サイト勝ちを作る方法は、入金を早めることだけではありません。支払いを遅らせることも有効です。

支払サイトを延ばす方法

・仕入先との交渉:「翌月末払い」を「翌々月末払い」にできないか相談
・クレジットカード払いの活用:実質的に支払いを1〜2ヶ月遅らせられる
・支払日の統一:バラバラの支払日を月1回に集約し、最も遅い日に統一
・リース・レンタルの活用:一括購入ではなく月々の支払いにする

【重要】下請法による支払サイトの制限

「支払いを遅らせる」といっても、法律で制限されている場合があります。

下請法(下請代金支払遅延等防止法)が適用される取引では、親事業者は受領日から60日以内に下請代金を支払う義務があります。これを超えると法令違反となり、公正取引委員会から勧告を受ける可能性があります。

 項目 内容
適用対象 資本金の大きい会社が、小さい会社に製造・修理・情報成果物作成・役務提供を委託する取引
支払期限 受領日から60日以内(起算日に注意)
違反時 公正取引委員会から勧告、企業名公表の可能性

自社が「親事業者」に該当するかどうか、取引内容が下請法の対象かどうかは、事前に確認しておく必要があります。「支払いを遅らせよう」という考えが、法令違反につながっては元も子もありません。

支払サイト延長のその他の注意点

・約束した期日は必ず守る(支払い遅延は信用を失う)
・長年の取引先に「支払いを遅らせたい」と言えば、資金繰りが苦しいと思われる可能性
・支払いを遅らせても、いずれ払わなければならない(資金繰り表での管理が前提)

業種によるサイトの違い——自社の状況を把握する

業種によって、入出金サイトの「当たり前」は大きく異なります。

業種 入金サイトの傾向 特徴
飲食・小売(BtoC) 現金・キャッシュレス→ほぼゼロ 構造的にサイト勝ちになりやすい
建設業(下請け) 60〜90日が多い 構造的にサイト負けになりやすい
製造業 30〜60日 取引先・立場により異なる
サービス業(BtoB) 30〜60日 前受金導入で改善余地あり

飲食業や小売業は、もともとサイト勝ちの構造を持っています。一方、建設業の下請けなどは構造的にサイト負けになりやすく、運転資金の確保が特に重要になります。

まず自社の入金サイトと支払サイトを計算し、サイト勝ちなのかサイト負けなのかを確認してください。構造的にサイト負けになりやすい業種であれば、その分の運転資金を最初から確保しておく必要があります。

これから起業する方へ——取引条件は最初が肝心

起業時に決めた取引条件(入金サイト、支払サイト)は、後から変更するのが非常に難しいです。

「最初のお客さんだから」「取引を始めることが大事だから」と、相手の言いなりの条件で契約してしまうと、その条件がずっと続きます。そして、その取引先からの紹介で来る新規顧客も、同じ条件を期待します。

【起業前に決めておくべきこと】
・自社の標準的な入金条件(例:月末締め翌月末払い、または着手金50%)
・前受金を導入するかどうか、導入するなら何%か
・どこまで条件交渉に応じるか(最低ライン)
・サイト負けになった場合に必要な運転資金の額

これらを事前に決めておき、交渉に臨んでください。「条件を決めていないから、相手に合わせる」ではなく、「自社の条件を伝え、そこから交渉する」という姿勢が大切です。

まとめ——入出金サイトを見直すチェックリスト

最後に、入出金サイトを見直すためのチェックリストをまとめます。

【現状把握】
□ 自社の平均入金サイトは何日ですか?(売掛金残高÷日商で計算)
□ 自社の平均支払サイトは何日ですか?
□ サイト勝ちですか、サイト負けですか?

【入金サイトの改善】
□ 現金売上を増やせる取引はありませんか?
□ 前受金を導入できる取引はありませんか?(デメリットも考慮)
□ キャッシュレス決済の導入で入金を早められませんか?
□ 入金サイトの短縮を交渉できる取引先はありませんか?

【支払サイトの改善】
□ 支払サイトの延長を交渉できる仕入先はありませんか?
□ ただし、下請法の適用がある取引ではありませんか?(60日以内の制限)
□ クレジットカード払いに切り替えられる経費はありませんか?

入出金サイトを制することは、キャッシュリッチ経営の重要な柱の一つです。粗利益率を守ること(No.4)、固定費を抑えること(No.5)と合わせて、会社にお金が残る経営を目指してください。

【関連記事】
・No.3 キャッシュリッチ経営とは——会社にお金が残る3つの条件
・No.4 粗利益率を守る——値引きの怖さと客単価の力
・No.5 固定費を増やさない——売上が落ちても耐えられる体質づく

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA