売上が好調なときに、広いオフィスに移転し、人を増やし、設備を充実させた。ところが売上が落ちたとき、その固定費が重くのしかかり、一気に資金繰りが苦しくなった——。
こんな話は珍しくありません。固定費は、一度上げると簡単には下げられないのです。
この記事では、固定費が経営を圧迫する仕組み、固定費を抑えるための具体的な方法、そしてすでに固定費が高くなってしまった場合の見直し方まで解説します。
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Contents
固定費と変動費——売上に連動するか、しないか
経費には、大きく分けて「固定費」と「変動費」があります。
| 区分 | 特徴 | 主な例 |
|---|---|---|
| 固定費 | 売上に関係なく毎月発生する | 人件費、家賃、リース料、保険料 |
| 変動費 | 売上に連動して増減する | 仕入原価、外注費、販売手数料 |
変動費は、売上が減れば自然と減ります。仕入れが減り、外注が減る。売上がゼロなら変動費もゼロに近づきます。
しかし固定費は違います。売上が減っても、家賃は毎月かかります。人件費も払わなければなりません。売上がゼロでも、固定費はゼロにはなりません。
だから、固定費が大きい会社は、売上が落ちたときに苦しくなるのです。
業種によって固定費の比率は異なる
固定費の適正比率は業種によって大きく異なります。
| 業種 | 固定費の特徴 | 目安 |
|---|---|---|
| 製造業 | 設備投資が大きく、固定費が高くなりやすい | 売上高の30〜50% |
| サービス業 | 人件費が中心。人が商品 | 売上高の40〜60% |
| 小売業 | 家賃と人件費。変動費(仕入)比率が高い | 売上高の20〜35% |
| IT・コンサル | 外注活用で変動費化しやすい | 売上高の20〜40% |
自社の固定費比率が業界平均より高いなら、見直しの余地があるかもしれません。まずは自社の数字を把握することが第一歩です。
固定費の怖さ——「一度上げると、下げられない」
固定費の本当の怖さは、「簡単には下げられない」ことにあります。
オフィスの家賃は、契約で縛られる
売上が好調なときに、見栄えの良いオフィスに移転する。よくある話です。
しかし、売上が落ちたからといって、すぐに狭いオフィスに戻れるわけではありません。賃貸借契約には通常、解約予告期間(3〜6ヶ月が一般的)があります。違約金が発生することもあります。移転には敷金・礼金・引越費用・原状回復費用がかかります。
「いざとなれば引っ越せばいい」と思っていても、実際には数百万円のコストと数ヶ月の時間がかかるのです。
人件費は、最も下げにくい固定費
人を雇えば、毎月の給与が発生します。社会保険料の会社負担も発生します。
売上が落ちたからといって、すぐに人を減らすわけにはいきません。日本の労働法では、解雇には厳格な制約があります。「売上が落ちたから」という理由だけでは、原則として解雇は認められません。
退職勧奨をするにしても、退職金の上乗せ、有給消化、再就職支援など、それなりのコストと時間がかかります。
人件費は固定費の中でも最も大きく、最も下げにくい費用です。だからこそ、増やすときは慎重に判断する必要があります。
「売上ゼロでも何ヶ月持つか」——会社の体力を測る
自社の体力を測る簡単な計算式があります。
手元資金 ÷ 毎月の固定費 = 売上ゼロでも持ちこたえられる月数
具体例で見てみましょう。
| 項目 | A社 | B社 |
|---|---|---|
| 手元資金 | 500万円 | 500万円 |
| 毎月の固定費 | 100万円 | 200万円 |
| 売上ゼロで持つ月数 | 5ヶ月 | 2.5ヶ月 |
手元資金は同じ500万円でも、固定費が違えば体力は倍も違います。A社は5ヶ月の猶予がありますが、B社は2.5ヶ月しかありません。
何ヶ月分あれば安心か?
一般的な目安をお伝えします。
| 月数 | 状態 | 評価 |
|---|---|---|
| 1〜2ヶ月 | 何かあればすぐに資金ショート | 危険 |
| 3〜4ヶ月 | 立て直しの時間がギリギリ | 要注意 |
| 5〜6ヶ月 | ある程度の対応時間がある | まずまず |
| 7ヶ月以上 | 余裕を持って対応できる | 安心 |
最低でも3ヶ月、できれば6ヶ月分の固定費を手元資金として確保しておきたいところです。固定費を増やすときは、この数字がどう変わるかを必ず確認してください。
人件費を「変動費化」する方法とその注意点
人件費は固定費の中で最も大きなウェイトを占めます。この人件費を少しでも「変動費化」できれば、売上の変動に対する耐性が高まります。
ただし、変動費化にはメリットだけでなくデメリットもあります。以下で3つの具体的な方法とその注意点を紹介しますので、両面を理解した上で自社に合った方法を選んでください。
方法①:賞与を業績連動型にする
給与全体を変動費化するのは難しいですが、賞与なら比較的取り組みやすい部分です。
「業績が良ければ多く、悪ければ少なく」という仕組みを導入すれば、会社の業績と人件費が連動します。業績が悪いときは人件費が自然と抑えられ、良いときは従業員にも還元される。会社にとっても従業員にとっても納得感のある仕組みです。
【メリット】
・業績悪化時の人件費負担が軽減される
・従業員のモチベーション向上につながる可能性
・好業績時には従業員にも還元できる
【デメリット・注意点】
・従業員に不安定感を与える可能性
・業績指標の設計が難しい(何を基準にするか)
・就業規則の変更、労使協議が必要
・間接部門への適用が難しい
導入する場合は、従業員への丁寧な説明と、明確で公平な評価基準の設計が不可欠です。
方法②:雇用形態の多様化を検討する
正社員、パート、派遣、業務委託——雇用形態によってコスト構造は異なります。
正社員は社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険)に加入する必要があり、会社負担分を含めると給与の約15〜16%が上乗せになります(令和7年度、東京都の場合)。
参考として、正社員1人とパート複数人のコスト比較を示します。
| 正社員1人(月給30万円、賞与3ヶ月) | パート3人(月7万円×3人) |
|---|---|
| 給与:30万円×12ヶ月=360万円 | 給与:7万円×3人×12ヶ月=252万円 |
| 賞与:30万円×3ヶ月=90万円 | 賞与:なし |
| 社会保険料(会社負担):約70万円 | 社会保険料(会社負担):※下記参照 |
| 年間合計:約520万円 | 年間合計:252万円〜 |
【重要な注意点】パートの社会保険加入要件について
2024年10月から、従業員51人以上の企業ではパート・アルバイトの社会保険加入要件が拡大されました。週20時間以上勤務、月額賃金8.8万円以上などの条件を満たすと、パートでも社会保険への加入が必要です。「パートだから社保不要」とは限りません。
【同一労働同一賃金への配慮】
正社員とパートの待遇差には、業務内容・責任・配置転換の範囲などで説明できる合理的な理由が必要です。単に「コストが安いから」という理由だけでの使い分けは、法的リスクを伴います。雇用形態の選択は、コストだけでなく、業務内容、法的要件、人材の定着、スキルの蓄積なども含めて総合的に判断してください。
方法③:外注・業務委託を活用する
IT、デザイン、経理、清掃など、外注できる業務は多くあります。外注費は仕事があるときだけ発生するので、変動費として扱えます。
【メリット】
・仕事量に応じてコストが変動する
・専門性の高い業務を任せられる
・社会保険料の会社負担がない
【デメリット・注意点】
・社内にノウハウが蓄積しにくい
・品質管理が難しい場合がある
・急な依頼に対応できないことがある
・偽装請負にならないよう注意が必要
あえて固定費を増やすべきとき——投資としての固定費
ここまで「固定費を増やすな」という話をしてきましたが、固定費を増やすことが正解のケースもあります。
・優秀な人材を採用することで、売上が大きく伸びる見込みがある
・設備投資によって生産性が向上し、コスト削減や売上増加につながる
・立地の良いオフィスに移転することで、採用力や信用力が向上する
・研修や教育に投資することで、長期的に生産性が上がる
これらは「費用」ではなく「投資」です。投資にはリターンがあります。
大切なのは、「この固定費増加は、どれくらいのリターンを生むか」を具体的に見積もることです。「なんとなく必要」ではなく、売上増加や生産性向上を数字で説明できるなら、その固定費増加は前向きに検討すべきです。
すでに固定費が高い場合——見直しのタイミングと方法
「もう固定費が膨らんでしまっている」という会社もあるでしょう。一気に減らすのは難しくても、タイミングを見て少しずつ見直すことはできます。
見直しのベストタイミング
・オフィスの契約更新時:家賃交渉、縮小移転、シェアオフィス活用を検討
・人員の自然退職時:補充するか、業務を見直すか、外注化するかを検討
・設備のリース更新時:本当に必要か、より安い代替手段はないか検討
・決算前:翌期の固定費計画を立て、削減目標を設定
・売上減少の兆候が見えたとき:早めに手を打つほど選択肢が多い
具体的な見直し方法
【家賃】
・更新時に家賃交渉(周辺相場を調べて交渉材料にする)
・縮小移転(広さを見直す)
・リモートワーク導入でオフィス面積を削減
・シェアオフィス、バーチャルオフィスの活用
【人件費】
・業務の棚卸し(本当に必要な業務か見直す)
・自然退職時に補充しない選択
・残業削減(残業代も固定費的な性格がある)
・業績連動型賞与の導入
【その他】
・保険の見直し(過剰な補償になっていないか)
・サブスクリプションの棚卸し(使っていないサービスの解約)
・リース契約の見直し(購入との比較、解約可能性の確認)
これから起業する方へ——最初は小さく始める
これから起業を考えている方には、「最初は固定費を最小限に」とお伝えしたいです。
起業時は売上の見通しが立ちにくい時期です。固定費が大きいと、売上が計画どおりに伸びなかったとき、すぐに資金が底をつきます。
・オフィスは自宅やシェアオフィスから始める
・人は雇わず、まずは自分一人でやる
・設備は必要最小限、リースやレンタルを活用する
・外注できるものは外注する(変動費化)
売上が安定し、成長の見通しが立ってから、少しずつ固定費を増やしていけばいいのです。最初から立派な体制を整える必要はありません。
固定費を低く抑えれば、その分、長く挑戦を続けられます。体力を温存しながら、売上を伸ばしていく。これが堅実な起業の進め方です。
まとめ——固定費と向き合うためのチェックリスト
最後に、固定費と向き合うためのチェックリストをまとめます。
【現状把握】
□ 毎月の固定費はいくらか把握していますか?
□ 売上高に対する固定費比率は業界平均と比べてどうですか?
□ 売上ゼロでも何ヶ月持ちこたえられますか?(目安:最低3ヶ月、できれば6ヶ月)
【固定費を増やすとき】
□ その支出は売上増加や生産性向上に直結しますか?
□ 売上が30%落ちても払い続けられますか?
□ 撤退するときのコスト(違約金、退職金など)を把握していますか?
【定期的な見直し】
□ 契約更新時に家賃交渉をしていますか?
□ 使っていないサブスクリプションはありませんか?
□ 業務の棚卸しを定期的に行っていますか?
固定費を適切にコントロールすることは、売上が落ちても耐えられる体質を作ることです。粗利益率を守ること(No.4)、入出金サイトを改善すること(No.6)と合わせて、キャッシュリッチな経営を目指してください。
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