№ 4 粗利益率を守る——値引きの怖さと客単価の力

記事監修

大内浩一税理士事務所
所長/税理士 大内浩一

9年間の税理士事務所勤務を経て、平成9年に大内浩一税理士事務所を開業。平成13年には米国公認会計士試験に合格(イリノイ州)。現在に至る。上場企業から個人事業までの幅広い税務顧問を中心に業務を展開。現在では、相続手続き及び相続税申告業務に力を注いでいる。

「もう少し安くならない?」

お客さんからそう言われて、つい値引きに応じてしまった経験はありませんか。

「10%くらいなら、大した影響はないだろう」——そう思うかもしれません。しかし実は、10%の値引きは粗利益を33%も減らします。逆に、10%の客単価アップは粗利益を33%も増やします。

この記事では、値引きが利益に与える影響を具体的な数字で解説します。そして、値引き交渉への対応例や、すでに値引き体質になってしまった会社の立て直し方も紹介します。

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10%の値引きで、粗利益は33%減る

まず、値引きが粗利益に与える影響を数字で確認しましょう。

粗利益率30%の商品を例にします。客単価1,000円、売上原価700円、粗利益300円です。

項目 標準 10%値引き 20%値引き 30%値引き
客単価 1,000円 900円 800円 700円
売上原価 700円 700円 700円 700円
粗利益 300円 200円 100円 0円
粗利益の増減 △33.3% △66.7% △100%

10%値引きすると、粗利益は300円から200円に。減少率は33.3%です。20%値引きで粗利益は100円(△66.7%)、30%値引きで粗利益はゼロになります。

なぜこうなるのか。値引きしても売上原価は変わらないからです。値引き分がそのまま粗利益の減少になります。

粗利益率によって、影響度は変わる

この「10%値引きで粗利益33%減」という数字は、粗利益率30%の場合です。業種によって粗利益率は異なりますので、影響度も変わります。

粗利益率 10%値引きの影響 該当しやすい業種
70%(高い) 粗利益 △14.3% サービス業、飲食業
50%(中程度) 粗利益 △20.0% 製造業(一部)
30%(低い) 粗利益 △33.3% 小売業、卸売業
20%(非常に低い) 粗利益 △50.0% 建設業(一部)

粗利益率が低い業種ほど、値引きの影響は大きくなります。粗利益率20%の場合、10%値引きで粗利益は半分になってしまいます。

まず自社の粗利益率を把握してください。決算書の「売上総利益÷売上高×100」で計算できます。

逆に、10%の客単価アップで粗利益は33%増える

今度は逆のシミュレーションです。同じ粗利益率30%で、客単価を上げるとどうなるか。

項目 標準 10%アップ 20%アップ 30%アップ
客単価 1,000円 1,100円 1,200円 1,300円
売上原価 700円 700円 700円 700円
粗利益 300円 400円 500円 600円
粗利益の増減 +33.3% +66.7% +100%

客単価を10%上げると、粗利益は300円から400円に。増加率は33.3%。値引きとまったく逆の効果です。

客単価を上げる3つの方法

「客単価を上げろと言われても、どうすれば……」という声をよく聞きます。具体的な方法を3つ紹介します。

① 価格を改定する
最もシンプルな方法です。原材料費や人件費が上がっているなら、それを価格に反映させる正当な理由があります。「値上げのお知らせ」を出すのは勇気がいりますが、利益率を守るためには必要な判断です。

② 粗利益率の高い上位商品・サービスを用意する
松竹梅の「松」を作る方法です。通常プランの上に「プレミアムプラン」を設ける。一部のお客さんが上位を選んでくれれば、全体の客単価は上がります。既存の価格を変えないので、抵抗感が少ない方法です。

ポイントは、上位商品の粗利益率を高く設計することです。一般に、上位商品は「付加価値」で差をつけます。手厚いサポート、長い保証期間、高品質な素材——これらは原価の増加以上に価格を上げられることが多く、結果として粗利益率も高くなります。単に高いものを売るのではなく、利益率の良いものを売る意識が大切です。

③ 粗利益率の高い関連商品・サービスを提案する
「ご一緒にいかがですか」の提案です。メイン商品に加えて、関連するオプションやアフターサービスを提案する。お客さんにとっても便利であれば、押し売りにはなりません。

ここでも、提案する関連商品の粗利益率を意識してください。たとえば、保守サービスや延長保証、消耗品の定期購入などは、仕入原価が低く粗利益率が高いことが多いです。何を提案するかで、客単価だけでなく全体の利益率も変わってきます。

値引き交渉にどう対応するか

理屈はわかっても、目の前で「安くして」と言われると断りにくい。特に法人取引(BtoB)では、見積もり後の値引き交渉は日常茶飯事です。

いくつかの対応パターンを紹介します。

パターン①:内容を減らして価格を下げる

「ご予算に合わせて、内容を調整しましょうか」という対応です。価格を下げる代わりに、サービス内容や数量も減らす。これなら利益率は維持できます。「同じ内容で安く」ではなく「予算に合った内容で」という提案です。

パターン②:条件を変えて価格を維持する

「この価格でお受けする場合、納期を〇週間いただけますか」「まとめてご発注いただければ、この価格で対応できます」という対応です。価格を維持する代わりに、こちらに有利な条件を引き出します。

パターン③:理由を説明して断る

「申し訳ありませんが、この価格が品質を維持できるぎりぎりのラインです」「原材料費が上がっており、これ以上のお値引きは難しい状況です」と、理由を添えて断る方法です。誠実に説明すれば、多くのお客さんは理解してくれます。

大切なのは、「値引きに応じない」のではなく「利益を守る代替案を提示する」という姿勢です。

すでに値引き体質になっている場合の立て直し方

「うちはもう値引きが当たり前になってしまっている」という会社も多いでしょう。そこからどう立て直すか。

既存客は据え置き、新規客から正規価格を適用する

既存のお客さんに「明日から値上げします」と言うのは難しいでしょう。まずは、新規のお客さんから正規価格を適用することから始めます。

新規客には料金表どおりの価格を提示する。「最初だけ安く」はしない。時間はかかりますが、徐々に正規価格の取引が増えていきます。

タイミングを見て既存客にも価格改定を伝える

契約更新のタイミング、年度替わり、原材料費の高騰など、価格改定を伝えやすいタイミングがあります。「来期から価格を改定させていただきます」と、事前に予告して実施します。

一部のお客さんは離れるかもしれません。しかし、利益の出ない取引を続けても会社は強くなりません。離れたお客さんの分は、正規価格で取引してくれる新規客で埋める——その覚悟が必要です。

これから起業する方へ——最初が肝心

これから起業を考えている方には、特に伝えたいことがあります。

起業直後は、早く売上を立てたい、早く実績を作りたいという気持ちから、相手の条件を丸のみしがちです。「最初のお客さんだから」「まずは取引を始めることが大事」——そう思って値引きに応じてしまう。

しかし、一度決めた取引条件を後から変更するのは、非常に難しいのです。

しかも、値引きしたお客さんからの紹介で来る新規客は、同じ値引き条件を期待します。「あそこは安くしてくれるよ」と聞いて来たのですから当然です。こうして値引き客が値引き客を連れてくる——という悪循環に陥ります。

起業前に料金表を作り、その価格でスタートする。最初のお客さんにも正規価格で提案する。勇気がいりますが、これが後々の経営を楽にします。

まとめ——粗利益率を守るために

最後に、この記事のポイントをまとめます。

□ 自社の粗利益率を把握していますか?
□ 10%値引きしたら、粗利益が何%減るか計算できますか?
□ 値引き交渉への対応パターンを持っていますか?
□ 料金表を作り、公開していますか?

粗利益率を守ることは、キャッシュリッチ経営の第一歩です。固定費を抑えること(No.5)、入出金サイトを改善すること(No.6)と合わせて、会社にお金が残る経営を目指してください。

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