№ 3 キャッシュリッチ経営とは——会社にお金が残る3つの条件【概要編】

記事監修

大内浩一税理士事務所
所長/税理士 大内浩一

9年間の税理士事務所勤務を経て、平成9年に大内浩一税理士事務所を開業。平成13年には米国公認会計士試験に合格(イリノイ州)。現在に至る。上場企業から個人事業までの幅広い税務顧問を中心に業務を展開。現在では、相続手続き及び相続税申告業務に力を注いでいる。

売上1億円で手元資金100万円の会社と、売上3,000万円で手元資金1,000万円の会社。

経営が安定しているのは、どちらでしょうか。

答えは明らかです。売上の大きさと、経営の安定は別物です。

この記事では、「キャッシュリッチ経営」——会社にお金が残る経営の基本的な考え方を解説します。

すでに事業を営んでいる方はもちろん、これから起業を考えている方にもぜひ読んでいただきたい内容です。起業前にこの考え方を知っておくことで、「お金が回らない」という苦しみを避けることができます。

詳細は各テーマの記事で掘り下げますので、まずは全体像をつかんでください。

会社が倒産するのは「赤字のとき」ではない

会社はいつ倒産するのか。

「赤字になったとき」ではありません。会社が倒産するのは、お金がゼロになったときです。

赤字でも、手元にお金があれば会社は続けられます。逆に、帳簿上は黒字でも、支払いに充てるお金がなければ倒産します。これが「黒字倒産」です。

なぜこんなことが起きるのか。それは、損益計算書の「利益」と、実際の「現金」が一致しないからです。売上が立っても入金前なら現金は増えません。利益が出ても借入返済で現金は減ります。

だからこそ、「利益」ではなく「現金」に注目する経営が必要なのです。

お金が残る会社の3つの条件

キャッシュリッチな会社には、共通する3つの条件があります。

条件 内容 効果
① 粗利益率 高い粗利益率の仕事をする 売上に対して残るお金が増える
② 固定費 固定費をできるだけ増やさない 出ていくお金が減る
③ 入出金サイト 入金を早く、支払いを遅く 手元にお金が留まる時間が長くなる
③ 入出金サイト 入金を早く、支払いを遅く 手元にお金が留まる時間が長くなる

この3つを意識するだけで、会社の資金繰りは大きく変わります。それぞれ見ていきましょう。

① 粗利益率——同じ売上でも、残るお金が違う

粗利益率30%の会社と60%の会社。同じ1,000万円を売り上げても、手元に残る粗利益は300万円と600万円——2倍の差がつきます。

粗利益率が低いと、たくさん売らなければ利益が出ません。売上が少し落ちただけで赤字に転落するリスクも高まります。

特に中小企業は、使える人も、お金も、時間も限られています。限られた経営資源を粗利益率の低い仕事に投入しても、大きな利益にはつながりません。

粗利益率とは、売上高に対する粗利益(売上高-売上原価)の割合です。業種によって目安が異なるのは、原価の構成が違うためです。

小売業は仕入れた商品をそのまま売るため原価率が高く、粗利益率は低めになります。一方、サービス業は「人の技術や時間」を売るため原価が少なく、粗利益率は高くなります。飲食業は材料費がかかりますが、調理という付加価値があるため、小売より高めです。

業種別の目安は以下のとおりです。

業種 粗利益率の目安
飲食業 60〜70%
小売業 25〜35%
製造業 20〜40%
サービス業 50〜70%
建設業 15〜25%

自社の粗利益率がこの目安を下回っているなら、価格設定や原価の見直しを検討すべきかもしれません。逆に、目安を上回っているなら、それは強みです。その強みを維持・強化することを考えましょう。

→ 詳しくは【No.4 粗利益率を守る——値引きの怖さと客単価の力】

② 固定費——一度上げると、下げられない

固定費とは、売上に関係なく毎月発生する経費です。人件費、家賃、リース料などが該当します。

固定費の怖さは、「一度上げると簡単には下げられない」ことです。売上が好調なときに広いオフィスに移り、人を増やす。しかし売上が落ちても、賃貸契約は解約できず、人件費もすぐには減らせません。

売上が減っても固定費は減らない——その結果、利益が一気に吹き飛びます。

ここで一つ、考えてみてください。

「売上がゼロになっても、会社は何ヶ月持つか?」

たとえば、毎月の固定費が100万円、手元資金が500万円なら、売上ゼロでも5ヶ月は持ちこたえられます。固定費が150万円なら、約3ヶ月です。

この「何ヶ月持つか」という数字は、会社の体力を測る重要な指標です。固定費を増やすときは、この数字がどう変わるかを必ず確認してください。

③ 入出金サイト——黒字倒産を防ぐ仕組み

「サイト」とは、売上代金の回収までの期間と、仕入代金の支払いまでの期間のことです。

  • ・サイト勝ち:入金が早く、支払いが遅い → 手元にお金が残る
  • ・サイト負け:入金が遅く、支払いが早い → 手元からお金が消える

サイト負けの状態で売上が伸びると、立て替えるお金も増えます。利益は出ているのに現金が足りない——これが黒字倒産のメカニズムです。

具体的な数字で考えてみましょう。

月商500万円の会社で、売上の入金が「末締め翌々月末払い」だとします。1月の売上500万円が入金されるのは3月末。つまり、常に2ヶ月分の売上=1,000万円が「入金待ち」の状態です。

もし入金サイトを1ヶ月短縮できれば、手元資金が500万円増えます。逆に、売上が伸びて月商が1,000万円になれば、入金待ちは2,000万円に膨らみます。

売上が伸びているのに資金繰りが苦しい——その原因は、このサイトの問題であることが少なくありません。

現金売上を増やす、前受金をもらう、支払条件を交渉する——サイトを改善する方法はいくつもあります。

 

3つの条件は連動している

ここまで3つの条件を見てきましたが、これらは独立しているようで、実は連動しています。

粗利益率が高ければ、少ない売上でも固定費をカバーできます。固定費が低ければ、多少のサイト負けにも耐えられます。サイトで勝っていれば、粗利益率が低くても資金繰りは回ります。

つまり、3つのうち1つでも強みがあれば、他の弱点をカバーできるのです。

逆に言えば、3つすべてが悪い方向に振れると、経営は一気に苦しくなります。粗利益率が低く、固定費が重く、サイト負けしている——この状態では、売上が少し落ちただけで資金ショートのリスクが高まります。

だからこそ、この3つを常に意識し、少なくとも1つは「強み」と言える状態を維持することが大切なのです。

なお、資金繰りに影響するのはこの3つだけではありません。借入金の返済も大きな要素です。

利益が出ていても、その利益以上に借入金を返済していれば、手元の現金は減っていきます。「黒字なのにお金がない」原因が、実は借入返済だったというケースも少なくありません。

借入金と資金繰りの関係については、別の記事で詳しく解説します。

まとめ——まずは3つの数字を確認しよう

キャッシュリッチ経営の第一歩は、自社の現状を知ることです。

□ 自社の粗利益率は何%か?業種の目安と比べてどうか?
□ 毎月の固定費はいくらか?売上ゼロでも何ヶ月持つか?
□ 売上の入金は平均何日後か?仕入の支払いは何日後か?

この3つの数字を把握するだけで、自社の課題が見えてきます。

特にこれから起業を考えている方は、この3つのポイントを意識しながら経営計画を立ててください。

  • ・どれくらいの粗利益率が見込めるビジネスか?
  • ・毎月の固定費はいくらに抑えられるか?
  • ・売上の入金条件はどうなりそうか?前受金はもらえるか?

起業してから「こんなはずではなかった」と気づいても、軌道修正は簡単ではありません。事前にこの3点をシミュレーションしておくことで、資金繰りに苦しまない経営のスタートを切ることができます。

会社は赤字で倒産するのではありません。お金がゼロになったときに倒産するのです。売上の大きさより、手元の現金を重視する。それがキャッシュリッチ経営の基本です。

各テーマの詳細は、以下の記事で解説しています

【関連記事】
No.4 粗利益率を守る——値引きの怖さと客単価の力

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